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L'ortensia: 紫陽花

 咲き始めの小さな初々しい紫陽花から、色が様々に変化して、シックな色の不思議な魅力、雨に濡れながらひっそりと山寺の奥に咲く姿や、

奈良にあるあじさいの森など、様々な姿を追いました。

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 「紫陽花の不思議」                           COROMICO

 

 実は、梅雨のじめっとした時期が大好きで、雨が降れば降るほどうれしくなって、どこかに出かけたくなります…。

 この時期には、新緑の時期を過ぎた緑がいっそう濃く、匂い立つように濃密で、雨にうたれた森のみずみずしさ、透き通るような楓の葉の美しさが格別だから

です。

 

 哲学の道や清水寺、伏見稲荷大社などでは外国からの観光客の方で

いっぱいな京都のお寺も、紫陽花のお寺のことは知られていないのか、

ほとんど人がいなくてひっそりと静まりかえっています。

 そんな中、傘をさして(時にはどしゃ降りの雨に打たれながら)水滴の色に滲む

ように浮かび上がる、紫陽花の色とりどりの淡い色彩を眺めながら一人でそっと

歩くのが大好きです。

 

 宇治の三室戸寺ももちろん素晴らしいのですが、紫陽花の名所として必ずしも

知られているわけではないけれど、何本か、味わいの深い美しい紫陽花がある、小さなお寺や神社を訪れるのはひそかな梅雨の日の楽しみです。

 圧倒されるようなあじさいの集合体としてのものすごい絶景とか、一面が

あじさいに埋め尽くされた、目を見張るような風景とかはない代わりに、

ほんわかした一輪一輪のしっとりとした美しさ、優しさが心にしみいるような感じがするからです。

 そしてそういう場所には、他にはないような、不思議な、めずらしい紫陽花の

お花が思いがけないような場所にふわっふわっと咲いていて、思わずにっこりしてしまいます。

 

 ずっと眺めていると、紫陽花というのは、つくづく不思議なお花だなと

思います…。

 雨の日の滴がそのまま集まって精になったような、淡いブルーの色の

紫陽花は、特に水滴に濡れているとそのまま空気にとけ込んでふわっと消えて

しまいそうな不思議な雰囲気をたたえています…。

 また、たくさんの小さな小さな花の集まったそのお花の中をじっと

見つめていると、まるで蘭の花のようにあでやかで、小さな無数の蝶々が、

飛び立つのを待っているような不思議な姿に見えてきます。

 

 中でも大好きなのが、登山した時に出会う、小あじさいというお花で、険しい

山道の中で、ふんわりふんわりと、まるで綿菓子のようなまんまるの、

かわいらしい姿で咲いているのを見ると、思わずにこにこしてしまいます。 

 お花もとても繊細で、雨の日の水蒸気をそのまま集めて結晶にしたような、

そっと触れたら融けてしまいそうな、不思議なお花です。

 

 それから、もしかしたら人はこわがるかもしれないですが、雨の日のお寺の

裏山やお墓の周りに一面に一面に咲くあじさいの群落の、青く、ぼんやりと

浮かび上がるようなちょっとおどろおどろしい感じも大好きです。

 可愛らしく、色とりどりで美しい姿だけでなく、そんな、雨の日のおぼろな

情緒を醸し出してくれるそんな姿もまた、西洋にはない日本の紫陽花のとても

大きな魅力なんじゃないかなと思います。

 もしかしたら6月の、雨のしとしとと降る梅雨の日には、いつもとは違った、

メランコリーな気分に浸りたくなるからなのかもしれません…。

 

                                            8.Giugno.

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