L'acero: 楓
春になって生まれたばかりの小さな小さな赤ちゃん楓から、
夏が訪れて美しい青紅葉になり、やがて色とりどりに色づく紅葉の秋を迎えて、ゆきの季節になるまでを追いかけました。
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「L'acero: 楓」 COROMICO
春になると、桜が美しすぎて、つい上ばかりを見上げてしまうのですが、そのちょっと上の方にはもう一つ、素敵なものがあります。
桜を見上げた時、一緒に、透き通るような色の繊細な、星のようにきらきら光る葉っぱを見られたことはないでしょうか??
それは生まれたばかりの楓の新緑の葉です。
小さな小さな星の形をしたお花が、まだ緑の淡い新芽といっしょに風に揺れて
いる姿を見ると、生まれたばかりの幼い命に、なんだかとても心がはずみます。
桜の名所は、同時に紅葉の名所でもあることが多いのですが、少し先に
生まれた桜のお花たちは、やや大人びてお姉さんのようにはかなげな風情を
醸し、生まれたばかりの楓の子供たちは、まだまだ幼くて元気いっぱいに空に
向かって伸びていこうとしています。
そんな時期から見ていると、これから訪れる紅葉の時期に、一身に色とりどりの色を集めて、一番美しく輝いている時を思い、胸がいっぱいになり、そして、
いずれ訪れる落葉の時の切なさも、少し和らぐような気がしてきます…。
葉がすっかり色あせて、惜しげもなく地面にその色彩を振りまいて枯れてゆく
時も、季節が巡って桜の時期になれば、元気いっぱいの、生まれたばかりの
楓の子供たちにまた巡り会えると思うからです…。
そんな思いを胸に、「ありがとう。また来るよ」と声をかけて、少し後ろ髪を
ひかれながらその場を後にします。
「夏、緑の鮮やかさを競っていた木々が
秋、赤の鮮やかさを競っている
次は、みずからを地面に振舞うこと
次は? 次は――」
(吉野弘「紅葉」)
8.Giugno.